縦書きブログ「八軒家南斉」

WEB1グランプリ 準グランプリ受賞

2005年9月19日

九月十九日(月)

上方落語のアイデアには、とんでもない奇想天外なのがあって驚く。NHKの「日本の話芸」で桂南光が演じていたが、「胴斬り」というニヒルで物騒な演題がある。

舞台は、堂島川と土佐堀川にはさまれた中ノ島。
江戸時代ここらあたりは、諸大名の蔵屋敷が軒をつらねていて、諸国の侍がうろうろしていた。町方の手のはいりにくい蔵屋敷の中間部屋が、ばくち場になっていたらしい。
すってんてんになった男が酒の勢いも手伝って、道を聞いた田舎侍にからみ、悪態をついたあげく、かーっと、痰をはきつけた。
怒った侍、「許さんぞ、そこ動くな。エイッ」と腰をひねると、ずばーっとみごとな胴斬り。

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切られたほうは、胴体がポーンと用水桶の上に載って、足だけが、ひょこひょこ、むこうに行ってしまう。
斬られた男のよめはんが、家に連れ帰られた二つになった亭主をみながら、「この人五体満足でも食いかねてるのに、これからどうしたらええのやろ、」と心配するのを、世話好きの友達がハローワークしてやる。
上半分を風呂屋の番台に、足だけを麩屋の麩踏みの職人として奉公させた。麩を作るとき、ひたすら脚で麩を踏むのだ。それぞれに適所適材で、双方の雇い主からも大いに重宝された。
と、こんな風に、これから、ぼちぼち抱腹絶倒の、胴と足のやり取りが始まる。米朝、枝雀、南光の桂一門のレパートリーである。足が懸命に麩を踏んでいるさまを、南光はざぶとんを麩にみたてて演じている。
このおかしくもニヒルなはなしは、だれによっていつ頃発案されたものなのだろうか。
高座をきくのがいちばんだが、「米朝ばなし 上方落語地図」(講談社文庫)にも紹介されている。

胴斬りにあっても、血も出ず、痛いともいわず、胴も足もぴんぴんしてまじめに働いている。落語だけのとぼけてバーチャルな世界だ。ぼくもマウスを動かして本邦初の挿絵を、勝手に描いてみた。

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蛇足だが、赤外線でとらえた胴斬り犯人の手配像も。
犯行に及んだ侍は、そのまま、「この川浪にぱっと放せば、面白やの有様や」と、謡いの「鵜飼」をうたいながらふりむきもせず、ゆうゆうといってしまった。と、「米朝話」にある。夜目遠目ではっきりしなかったが、この侍、腕も立つが、なかなかの学があったのだ。

投稿者 nansai : 2005年9月19日 11:20