縦書きブログ「八軒家南斉」

WEB1グランプリ 準グランプリ受賞

2013年2月21日

二月二十一日 駅頭で一枚の張り紙を見過ごしてしまうところだった。

先月まで、地下鉄淀屋橋駅の柱に、小さなビラが貼ってあった。「お願い」とあるが、薄暗くて見えにくい。


yodoyabasi.JPG


指名手配ではなく、淀屋橋駅長からのたづね人だ。ある女性を探していた。すこしでも目立つようにと、赤マジックでアンダーラインしてある。読んでみると、


お願い
平成24年12月15日(土)22時頃、
当駅でお客様への救命措置に際して、人
工呼吸のご協力をいただきました、女性
のお客様を探しています。
おかげさまで、そのお客様は無事
一命を取りとめることができました。
交通局として、改めてお礼を申し上
げたいと存じますので、お心当たり
の方は、駅長室までお申し出ください
ますよう、お願いいたします。 駅長


いい話だなあ、カメラにはおさめておいた。それで、あとどうなったか、気にはなっていた。年があけて先月、忘れかけていたころ、朝日新聞が、取材してくわしく取り上げた。見出しは、

「お礼を」恩人女性捜す。
人工呼吸 名乗らず去る

記事によると、昨年暮れに忘年会帰りの73歳の男性が心筋梗塞で心肺停止状態で倒れたが、若い女性のけんめいの人工呼吸のおかげで危うく一命を取り留めた。名も告げずに立ち去った女性にお礼が言いたいと探しているというものだ。

駅頭にそなえてあるAEDの電気ショックによる心臓マッサージは効かなかったらしい。きわめて危ない状態。その時一人の若い女性が救助の輪に加わった。
「嘔吐の痕にもひるまず、男性の口を自らの口で覆い、懸命に息を吹き込み続けた。」と記事は伝えている。
これは決断と勇気だ。なかなかできないことだ。その様子をみて、周りの乗客たちが手を貸し、意識を失った男性を囲み、声をかけ続けた。脈をはかるのに、秒針のある時計がいるという声に、クリスマスプレゼントの包装を破って新品の腕時計を差し出した男性もいた。

倒れて6分後に呼吸と脈がかすかに戻った。男性は意識不明のまま病院に搬送されたが、緊急手術を受け、意識を取り戻した。
男性は、順調に回復して新年は妻と娘とともに自宅で迎えることができたそうだ。
「見ず知らずの私に、ためらいもせず人工呼吸をしてくれた命の恩人」にあってお礼をいいたいと話しているという。
いじめ、体罰、殺人と、殺伐なニュースのあふれるきょうこのごろだが、これは、寒風にそよぐ一輪の花のようだ。淀屋橋駅を毎日利用しているぼくとしては、しみじみあたまがさがる。

その後女性の友人からテレビの番組に通報があったが、本人はあたりまえなことをしたまで、とインタビューを固辞したという。すがすがしい。
表彰状はあまりに形式的、通勤者のひとりとして、橋本市長にかわって、気持ちを込めて花を贈りたい。

yodoyabasi2.JPG

投稿者 nansai : 2013年2月21日 13:35